円と組み合わせたLETSの具体例

割引ポイント還元制度を応用したLETS

以下に紹介する方法は、既に日本各地の商店街で行われているポイント還元制度と基本的には同じものである。それは最近になって多くの大手家電量販店がやっているポイントカードと同じく、買い物をしたら買値の2〜5%ぐらいがポイント還元としてカードに貯められ、次回に買い物をするとき貯めたポイントがお金と同じように使えるというもので、大手量販店ではその店の各支店だけでしか使えないのだが、商店街全体で共通のポイント還元を導入することにより八百屋で買い物をしたときに貰ったポイントが同じ商店街の魚屋においても使えるというものである。そのことにより顧客の囲い込みをはかり地元の大手ショッピングセンター等に対抗するわけである。
ただし、商店街共通のポイントカードは大手量販店単独のポイントカードと大きな違いがある。それは、客が使ったポイントを使われた店が他の店に対し再びポイントとして使えるということで、これによって、その商店街の内部でポイントが通貨と同じ役割を果たすのである。
以下に、実際に行われている商店街共通ポイントカードの場合を説明しよう。
この共通ポイントカード制度に参加した店は、買い物をした客の希望によりポイントカードを発行し、100円の買物をする毎に1ポイントを加算していく。そして350ポイント(35.000円買い上げ相当)を貯めるとカードが満点となり700円の買い物券として利用できる。つまり、1ポイント(100円)につき2円の割引(2%)となるわけである。この他にレジ袋不要を申告すると1ポイントもらえる制度や、地域イベントへの参加券として使える制度もあるが、最も重要な特徴は上で述べたように、客が使ったポイントカードを使われた店も買い物券として他の店で使えることにある。
この例の場合には、客が700円の買い物券として使ったカードを500円の買い物券として使えるのだが、これにより、ポイントを発行することの多い店(得をする)とポイントが使われることの多い店(損をする)との不公平をなくすわけである。また、700円から500円に減額するのは、自分の店で発行したポイントを自分の店で使われ、そのカードを他の店で利用する場合の不公平を減らすためである(その店の利益を除いた分が使えるという考え)。
つまり、複数の店が集合した商店街で共通に使えるポイントカードを運用する工夫として考えられた上のような制度が、あたかも商店街同士の市民通貨のように作用するのだが、これを完全な通貨と考えると問題がある。というのも、この制度では客のポイントカードには貯められたポイントが正確に記録されるが、各店が発行したポイントと使われたポイントは記録されていない(ただし、ICカードなどを利用したところでは記録されているかもしれない)。したがって、ポイントを発行することの多い店(得をする)とポイントを使われることの多い店(損をする)の格差は不透明になってしまっている。
そこで、この問題を解消するためにLETSを取り入れる。
具体的には、客にポイントを発行するとその店に発行したポイント分のマイナスが記録される。客にはその分のプラスが記録される。そして客がそのポイントを参加店で使うと、客にはその分のマイナスが記録され(0になると使えないので客にマイナスの状態はない)、使われた店にはプラスが記録される。そして各参加商店のポイントは常に公開される(客のポイントは全体としては公開されるが個々人のポイントはプライバシー保護の観点から本人以外に公開すべきではない)。
この方式により、得をしている店と損をしている店が明らかになり、マイナスの多い店(得をしている店)に対してはプラスの多い店や客がその店に積極的にポイントを使うことで格差が解消される。また、意図的にポイントの使用を拒む悪質な参加店があれば明らかになるし、業態的にマイナスの多くなる店(客単価が高くリピート率の低い商品を扱う店)にも何らかの解決策が計れるわけである。
つまり、商店街共通ポイントカードにLETSを取り入れることにより参加商店の損得関係が明確化し、通貨として最も大切な「信用」を向上させることが出来るのである。
これにより、現状の2%程度の割引率をある程度上げることができるはずであり、少なくと5%ぐらいに上げれば客の参加も増えると思われる。また、そもそも割引率を一律にする必要もなくなる。例えば、販売単価の低い店では10%の割引率(100円に対して10円)にして、単価の高い店は1%(1万円に対して100円)にすることで幅広い業種の参加が見込める。
では具体例を説明するが、消費税の計算や店(法人)のポイントを個人が使用する際の税法上の扱いといった問題は省略する。

運用の具体例

大手量販店の進出により客足の遠のいたある地方の商店街で、地元の客を呼び戻すためにLETS方式のポイント還元型市民通貨「B」を導入することになった。
ポイントの還元率は10%で、客がポイントを使用して支払う際も現金の支払いと同様に10%が還元される。
下の例の参加者は客に大江、石原、村上、商店に「蕎麦処泉」(店主は太宰)、「ポー電気」、「夏目書店」(店主は夏目)となる。
市民通貨「B」が始まった2月1日から2月9日までの取引は以下の通りである。

2月1日に大江が「蕎麦処泉」で、狐蕎麦を食べ800円を支払い80Bが還元された。
2月3日に石原が「蕎麦処泉」で、ざる蕎麦を食べ750円を支払い75Bが還元された。
2月3日に村上が「ポー電気」で、ストーブを買い15,000円を支払い1,500Bが還元された。
2月4日に村上が「夏目書店」で、1200円の小説を買いポイントの1200Bで全額支払い120Bが還元された。
2月5日に石原が「蕎麦処泉」で、1,000円の天蕎麦を食べ現金925円とポイントの75Bで支払い100Bが還元された。
2月5日に大江が「夏目書店」で、300円の週刊誌を買い現金220円とポイントの80Bで支払い30B還元された。
2月6日に「夏目書店」の夏目が「蕎麦処泉」で、800円の狐蕎麦を食べポイントの800Bで全額支払い80Bが還元された。
2月7日に「蕎麦処泉」の太宰が「ポー電気」で、500円の電球を買いポイントの500Bで全額支払い50Bが還元された。
2月9日に石原が「夏目書店」で、新書を買い400円を支払い40Bが還元された。

以上の取引をLETSの仕分帳形式の取引記録としてまとめると以下のようになる(分かり易くするために色分けした)。ポイントで支払う場合は、支払いポイント(B)と還元ポイント(B)の二つを記録する。


ポイント還元型市民通貨B 取引記録 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/01 狐蕎麦 大江 蕎麦処泉 80 80
02/03 ざる蕎麦 石原 蕎麦処泉 75 75
02/03 ストーブ 村上 ポー電気 1,500 1,500
02/04 小説 夏目書店 村上 1,200 1,200
02/04 小説 村上 夏目書店 120 120
02/05 天蕎麦 蕎麦処泉 石原 75 75
02/05 天蕎麦 石原 蕎麦処泉 100 100
02/05 週刊誌 夏目書店 大江 80 80
02/05 週刊誌 大江 夏目書店 30 30
02/06 狐蕎麦 蕎麦処泉 夏目書店 800 800
02/06 狐蕎麦 夏目書店 蕎麦処泉 80 80
02/07 電球 ポー電気 蕎麦処泉 500 500
02/07 電球 蕎麦処泉 ポー電気 50 50
02/09 新書 石原 夏目書店 40 40
上の全体記録から総勘定元帳を作る要領で客個人別、商店別の取引記録を作成する。ただし、客個人の取引記録はプライバシー保護の観点から本人以外には公表しない方が良いだろう。

大江 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/01 狐蕎麦 大江 蕎麦処泉 80  
02/05 週刊誌 夏目書店 大江   80
02/05 週刊誌 大江 夏目書店 30  

石原 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/03 ざる蕎麦 石原 蕎麦処泉 75  
02/05 天蕎麦 蕎麦処泉 石原   75
02/05 天蕎麦 石原 蕎麦処泉 100  
02/09 新書 石原 夏目書店 40  

村上 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/03 ストーブ 村上 ポー電気 1,500  
02/04 小説 夏目書店 村上   1,200
02/04 小説 村上 夏目書店 120  

蕎麦処泉 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/01 狐蕎麦 大江 蕎麦処泉   80
02/03 ざる蕎麦 石原 蕎麦処泉   75
02/05 天蕎麦 蕎麦処泉 石原 75  
02/05 天蕎麦 石原 蕎麦処泉   100
02/06 狐蕎麦 蕎麦処泉 夏目書店 800  
02/06 狐蕎麦 夏目書店 蕎麦処泉   80
02/07 電球 ポー電気 蕎麦処泉   500
02/07 電球 蕎麦処泉 ポー電気 50  

ポー電気 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/03 ストーブ 村上 ポー電気   1,500
02/07 電球 ポー電気 蕎麦処泉 500  
02/07 電球 蕎麦処泉 ポー電気   50

夏目書店 (2月1日から2月9日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 B 投方額 B
02/04 小説 夏目書店 村上 1,200  
02/04 小説 村上 夏目書店   120
02/05 週刊誌 夏目書店 大江 80  
02/05 週刊誌 大江 夏目書店   30
02/06 狐蕎麦 蕎麦処泉 夏目書店   800
02/06 狐蕎麦 夏目書店 蕎麦処泉 80  
02/09 新書 石原 夏目書店   40
最後に合計残高試算表を作る要領で残高一覧表を作る。受方−投方=残高がプラスになった客と商店は「受方」に、マイナスになった商店は「投方」に記載する。また実際の場合、客は個別ではなく全員の合計を公表した方が良いだろう。

ポイント還元型市民通貨B 投資残高一覧表 (2月9日現在)
受方 受方 参加者 投方 投方
残高(B) 合計(B)   合計(B) 残高(B)
30 110 大江 80  
140 215 石原 75  
420 1,620 村上 1,200  
90 925 蕎麦処泉 835  
  500 ポー電気 1,550 1,050
370 1,360 夏目書店 990  
1,050 4,730 合計 4,730 1,050
上の表から、大江は30B、石原は140B、村上は420Bのポイントを保有していることが分かるが、これは現時点で商店街にその分だけ投資しているということを意味する(客はマイナスのポイントを持つことができないので常にゼロか投資状態にある)。また、「蕎麦処泉」と「夏目書店」もそれぞれ90Bと370Bのポイントを保有していて投資状態にあるが、一方で「ポー電気」はマイナス1050ポイントであって、これは商店街から投資されている状態を意味する。