一般的なLETSの具体例

「借方」「貸方」から「受方」「投方」へ

LETSにおいては簿記の各勘定科目を参加者の名前に変えるだけで、原理的には複式簿記と全く変わらない。ただしLETSではモノやサービスの投資概念を基礎としているため、複式簿記における「借方」「貸方」という名称を以下のように変更する。
複式簿記における「借方」とは「お金を受け取る方」であり、「貸方」とは「お金を支払う方」であったが、これをLETS的にCommunityを主体に考えれば、お金を受け取ることはCommunityが受け取る側にお金を借りることであり、お金を払うことはCommunityが支払う側にお金を貸すことと考えられる。
そこで、全ての個人間の取引はCommunityへの投資-被投資と考える場合、「モノやサービスをCommunityに投資してお金(市民通貨)を受け取る方」をCommunityが(その人から)モノやサービスを投資されるという意味で「Communityが投資を受ける方」=「受方」、「モノやサービスをCommunityから投資されてお金(市民通貨)を支払う方」をCommunityが(その人に)モノやサービスを投資するという意味で「Communityが投資をする方」=「投方」と呼びたいと思う。
ここで注意しなければならないのは、どちらが「受方」「投方」かを覚えるときには、市民通貨を受け取るから「受方」であり、支払うから「投方」(市民通貨でよくある「投げ銭」の投げる方が「投方」)と考えてもらっても構わないが、LETS本来の概念としては、投資は市民通貨ではなくモノやサービスによって行われ、投資の「受方」「投方」の主体(主語)はCommunityにあるということである。だからこそ、モノやサービスを投資する方が「受方」になり、モノやサービスを投資される方が「投方」になるのである。
ややこしいが、考え方として大変重要なのでよく理解して欲しい。

運用の具体例

ここでは一般的なLETSの運用を具体例を用いて説明する。
ある地方の小さな村で、村人同士が助け合って生活を支えていくためにLETS方式の市民通貨「K」を導入することにした。参加者は高齢の宇沢、都留。都会からこの村に来た金子、岩井、野口。農業を営むの榊原の6人となる。
市民通貨「K」が始まった2月1日から3月31日までの取引は以下の通りである。

まず、2月1日に宇沢が金子に7000Kで自転車を提供した。
金子はその自転車を使って、500Kで遠出できない都留の買物を2月3日に引き受けた。
さらに金子は宇沢の買物を800Kで2月7日に引き受けた。
2月17日に岩井が都留の家の大掃除を2000Kで引き受けた。
2月19日に野口が榊原の農作業の手伝いを800Kで引き受けた。
2月24日に岩井が宇沢の家の修理を4000Kで引き受けた。
3月5日に榊原が岩井に700Kで榊原の畑で採れたイモを提供した。
3月16日に金子が宇沢の買物を800Kで引き受けた。
3月31日に榊原が野口に600Kで榊原の畑で採れたトマトを提供した。

以上の取引をLETSの仕分帳形式の取引記録としてまとめると以下のようになる(分かり易くするために色分けした)。


市民通貨K 取引記録 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/01 自転車 宇沢 金子 7,000 7,000
02/03 買物代行 金子 都留 500 500
02/07 買物代行 金子 宇沢 800 800
02/17 大掃除 岩井 都留 2,000 2,000
02/19 農作業 野口 榊原 800 800
02/24 家の修繕 岩井 宇沢 4,000 4,000
03/05 イモ 榊原 岩井 700 700
03/16 買物代行 金子 宇沢 800 800
03/31 トマト 榊原 野口 600 600
上の全体記録から総勘定元帳を作る要領で個人別の取引記録を作成する。

宇沢 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/01 自転車 宇沢 金子 7,000  
02/07 買物代行 金子 宇沢   800
02/24 家の修繕 岩井 宇沢   4,000
03/16 買物代行 金子 宇沢   800

都留 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/03 買物代行 金子 都留   500
02/17 大掃除 岩井 都留   2,000

金子 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/01 自転車 宇沢 金子   7,000
02/03 買物代行 金子 都留 500  
02/07 買物代行 金子 宇沢 800  
03/16 買物代行 金子 宇沢 800  

岩井 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/17 大掃除 岩井 都留 2,000  
02/24 家の修繕 岩井 宇沢 4,000  
03/05 イモ 榊原 岩井   700

野口 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/19 農作業 野口 榊原 800  
03/31 トマト 榊原 野口   600

榊原 (2月1日から3月31日まで)
日付 取引商品 受方 投方 受方額 K 投方額 K
02/19 農作業 野口 榊原   800
03/05 イモ 榊原 岩井 700  
03/31 トマト 榊原 野口 600  
最後に合計残高試算表を作る要領で残高一覧表を作る。受方−投方=残高がプラスになった人は「受方」に、マイナスになった人は「投方」に記載する。これは、「受方」に残高が記載されている人はその分だけCommunityに投資している(逆に言えばCommunityが投資を受けている)ということを意味し、「投方」に残高が記載されている人はその分だけCommunityに投資されている(逆に言えばCommunityが投資している)ということを意味する。

市民通貨K 投資残高一覧表 (3月31日現在)
受方 受方 参加者 投方 投方
残高(K) 合計(K)   合計(K) 残高(K)
1,400 7,000 宇沢 5,600  
  0 都留 2,500 2,500
  2,100 金子 7,000 4,900
5,300 6,000 岩井 700  
200 800 野口 600  
500 1,300 榊原 800  
7,400 17,200 合計 17,200 7,400
「受方」と「投方」の参加者全員の合計と残高が一致している。これが複式簿記と共通するゼロザム原理である。
以上で、一般的なLETS方式の市民通貨の運用と、複式簿記会計との原理的同一性を理解されたと思う。