00年代の30枚 その2

新年、あけましておめでとうございます。
2010年代はどのような時代になるのか?
分かりませんね。そもそも、00年代がどういう時代だったのかもよく分からない。
しかし、00年代について考えることで90年代がどういう時代だったのかが分かってくる。
10年くらい経たないと、「そのとき何が起こっていたのか」みたいなことはよく分からないものです。
では、00年代の30枚の続きです。
 

2003年

Speakerboxxx/The Love Below
Andre 3000 『The Love Below』 (米国)
二枚組のアンドレ3000の方です。ビッグ・ボイの方も別に悪くないのですが、やはりバカな戦争をやっているときにはバカな音楽で盛り上がろう、という感じがする『The Love Below』は素晴らしいです。
これはPV込みで評価したいアルバムですが、特に『Roses』が良かったです。非常に9.11的な何かを象徴しているPVではないかと思います。
同時期の名作PV、ブリトニーの『Toxic』もそうですね。
アメリカという国は戦争をやってないとどこか気合いの入らない困ったところがあるようです。
あと名前を忘れてしまったのですが、OutcastのPVによく出てくるサングラスのお調子者の彼はいいですね。
 
Tasty
ケリス 『Tasty』 (米国)
このアルバムもまたバカっぽくていいです。
やはり『Milkshake』が最高ですが、このPVや『Toxic』なんかを見ても、白人男性は戦争でもやってないと間が持たないというムードが漂っています。
「ケリス萌え」ですね、僕は。
 
Fernanda Porto
フェルナンド・ポルト 『Fernanda Porto』 (ブラジル)
2STEPのというよりドラムンベースの歌物です。ボサノヴァドラムンにアレンジするのはよくありましたが、それをもっと洗練させています。
これと先に挙げたタルヴィン・シンなどについて考えると、90年代に生まれたドラムンベースという音楽がインドからユーラシア大陸を西へ目指し大西洋を渡って南米に行き着くという流れの中から生まれた、歴史と空間を交叉する音楽であるということが分かります。
 
Asect: Dsect
リチャード・ディヴァイ 『Asect: Dsect』 (米国)
一方で、ドラムンベース英米音楽の最果てとして捉えるとこういう音楽になるのではないでしょうか。
この人はピアノを正式に学んでいたようで、他のエレクトロニカのアーティストと比べると音楽の「流れ」が格段にスムーズで、だからこそこのリズムが生きてきます。
西洋音楽の持つ力もやはりまた大きいものだと思わせます。
 
Mitsoura
ミツーラ 『Mitsoura』 (ハンガリー
ジプシーの人です。アラブ的というか独特の世界を現代的にやっています。
2曲目が非常に素晴らしく、浜崎あゆみがいっちゃったような凄い声で歌います。
これを聴くと、浜崎あゆみの声はもっと別な方向に活かすことができると思います。
 

2004年

Med〓lla
ビョーク 『Med〓lla』 (アイスランド
この人は確かに歌は上手いですが、先進的なサウンドとの相性はあまり良くないですね。同じことはUAにも言えますが、人間的な声とエレクトロニカの融合はコンセプトとしてよく分かるものの難しいところがあります。
そこで、全部声で音を創ったらどうよ?という試みは成功していると思います。
 

2005年

Arular
M.I.A. 『Arular』 (英国−スリランカ
ここまで今ひとつ同意され難いセレクトだと思いますが、M.I.A.だけは誰もが納得でしょう。英米の各音楽雑誌から今は亡きスタジオボイス、さらには池田信夫氏にいたるまでが評価しているのだから、00年代を代表するアーティストと言ってもいいかもしれません。
ただしどうも二枚目の方が評価が高いようですが、僕は断然一枚目です。RolandのMC-505で作ったサウンドの面白さは21世紀のダンスミュージックとして相応しいものです。
それにしても、なぜこのような音楽がいきなり出てきたのか?
本人はダンスホール・レゲエの影響を語っていますが、このノリは明らかにレゲエとは異なる。むしろバイレファンキですがサンバのノリとも違いますね。プロデューサーであるディプロの他のアルバムを聴いてもよく分からない。というか、ディプロは本人のユニットを聴いてもあんまり面白くないです。
まあ、こういうのが突然出てくるところが音楽の面白さです。
 
The Last Romance
アラブ・ストラップ 『The Last Romance』 (英国)
00年代の英国の音楽は移民系は別として影が薄くなったように思います。レイブでバカ騒ぎをやっていた頃が花でしたね。
アラブ・ストラップのアルバムなら90年代の方がいいでしょうが、ラストアルバムまでぶつぶつと呟き続けていたところを評価したいと思います。
 

2006年

ULTRA BLUE
宇多田ヒカル 『UTULTRA BLUE』 (日本)
宇多田のアルバムならどれを挙げてもいいのですが、ベスト的な意味でこれを選びます。つまり、『COLORS』、『誰かの願いが叶うころ』、『Be My Last』の3曲が入っているからです。一つのアルバムとしてはあんまり好きではないのですが、この3曲がもしかすると彼女の才能の絶頂期かもしれません。
ただ、『Beautiful World』や『HEART STATION』のような曲はこの3曲の持つ奥深さを聴きやすい曲に昇華していると思います。
 
NUNKI
カヒミ・カリイ 『NUNKI』 (日本)
ジャケットなら『Trapeziste』の方ですが、音楽としてはこちらです。
ノイズや音響やエレクトロニカやフリージャズを意識させることなく、最初からこういう音楽であるということが感じ取れる世界的レベルの作品だと思います。
 

2007年

十七歳
Base Ball Bear 『十七歳』 (日本)
こういう感じのバンドは最近結構いるようですね。昨日の紅白でも見かけました。
しかし、Base Ball Bearほどの曲の、歌詞の、そしてバンドとしての面白さを持った人達はいないでしょう。
僕は音楽(音楽だけに限りませんが)は「ストレート」にやって欲しいと思います。
一例を挙げれば、椎名林檎より矢井田瞳の方がずっといいと思います。矢井田の方が楽しそうに歌っているからです。
このアルバムの一番好きなところは、『愛してる』のベースの歌が下手なところです。
 
BEAUTIFUL SCARS
Kip Hanrahan 『BEAUTIFUL SCARS』 (米国)
ボーカルジャズというか、菊地成孔みたいな人で彼がライナーを書いています。
もともとラテンとジャズの融合のようなことをやっていた人ですね。
かつて”ベーシスト”だったのが、このアルバムでは”ギタリスト”になっていたとか、「流行」とは全く別の意味で大きな流れに乗った傑作です。
 
FLYING SAUCER 1947
HARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS  『FLYING SAUCER 1947』 (日本)
このリストは順位を付けずにやっていますが、もし00年代の1位を選べと言われたら迷うことなくこれを選びます。
細野晴臣の最高傑作を選べと言われてもこれを選びます。
最後の3曲が決定的です。
『夢見る約束』はUAの一番いいボーカルを引き出しています。
昨年の5月3日、日比谷野外音楽堂で本当の葬式をやってくれましたが、ああいうことができるのは細野晴臣だけでしょう。
 
もってけ!セーラーふく Re-Mix001 -7 burning Remixers-
泉こなた(平野綾)他 『もってけ!セーラーふく Re-Mix001 -7 burning Remixers-』 (日本)
らき☆すた問題というのは00年代の重要テーマだと思います。
たかが主題歌、ではないのです。このアニメが実は歌のためのアニメであり、ここで歌われていることこそが事の本質です。
そして、J-POPというのは1985年の『セーラー服を脱がさないで』に始まり、この曲で終わった何かです。
 

2008年

 
BEST FICTION(DVD付)
安室奈美恵 『BEST FICTION』 (日本)
ベストですが、『WHAT A FEELING』(大沢伸一)と『ROCK STEADY』(MURO)が入っているのでこれを選びます。
しかしそれだけではなく、安室奈美恵という人が00年代にここまできたという軌跡としてこれを選ばなければなりません。
DVDのPVを見れば、『WHAT A FEELING』と『ROCK STEADY』に彼女と日本のポピュラーミュージックの一つの偉大な達成が感じ取れるはずです。
 
DOLCE
鈴木亜美 『DOLCE』 (日本)
紅白歌合戦というものがいつ終わったかと考えてみると、2005年、鈴木亜美が『Delightful』を歌ったときじゃないかと思います。
あの持田香織なんてレベルじゃない破壊的なボーカルが歌合戦などという偽りの風習を終焉させたのです。
このアルバムには、中田ヤスタカホフディランの闘いといったような興味深いテーマが詰め込まれています。
 

2009年

CM3
CORNELIUS 『CM3』 (日本)
00年代のCORNELIUSのアルバムはどれも良くできていますが、最後にこれを選びたいと思います。
"Interpretation Remix"である彼のリミックスこそ、90年代を清算的に受け継いだ00年代にふさわしい作品だからです。